第91回 地権者住戸の多さに一抹の不安

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再開発によって生まれるマンションには「地権者住戸」と呼ばれるものが必ずと言ってよいほど存在します。

 

ちなみに、直近の人気物件「パークシティ武蔵小山タワー」は総戸数628戸のうち、地権者住戸は137戸とあります。

(注:以下の記事は、直接このマンションとは関係ありません)

 

地権者とは、マンションの敷地に以前住んでいた借地人・借家人・地主などの総称です。再開発を進めるには、数多くの地権者の利害を調整して行くのですが、その作業は途方もなく難しいとされます。根気のいる仕事であることは想像に難くありません。

 

住宅密集地を1軒ずつ口説き落として行くことを「地上げ」と言います。買収したら直ちに上物を解体し、柵で囲います。居住中または営業中の建物が残ったままの段階では、ブロック単位に見ると、虫食い状態になりますが、その範囲は徐々に拡大します。しかし、買収話に最後まで耳を貸さない家もあります。

 

説得に応じず、頑張り通す人もありますが、次第に一定の広さにまとまります。頑強に拒む人に業を煮やしたデベロッパーは、変形の土地だけで計画を進めることを決め、やがてマンション建設が始まります。

 

「地上げ」という困難な仕事を、その昔は裏世界の人間を起用したりしながら実行したと聞きます。立ち退きに応じない借家人を脅迫して追い出したとか、トラックを事故に見せかけて店舗に突っ込ませた事件、占有屋と呼ばれる者による建物の占拠など、地上げにまつわる裏世界のエピソードは枚強にいとまがありません。

 

現在は、旨味がなくなったためでしょうか、地上げに裏世界の人間が関わるということは殆どないと聞きます。不動産業者またはゼネコンなどが直接地上げに乗り出すとしても、地権者自身で多数の土地をひとつにまとめ上げる「再開発組合」を設立してもらうように持ちかける形が一般的です。

 

地権者の中にリーダー格の人物が必ず存在するもので、そのキーマンを見つけ、うまく焚きつけて再開発のメリットを地権者全員に浸透させつつ、土地を手放すよう働きかけるわけです。地元民が何度も協議をして一斉に土地を売る、「30坪の土地では大して価値はないが、3000坪にまとまると、その土地は輝きを増す。すなわち高く売れる」。こうして口説くわけです。

 

デベロッパーにも地権者にもメリットがあるからこそ、どこかで合意し、土地はマンション用地として売り渡されます。

 

ただし、単純に土地を売るという形にはまずなりません。筆者も、小さな再開発案件で関わった経験を持っていますが、ある地権者は「商売を続けたいので金はいらないから店舗を作ってくれ」といい、別の地権者は「先祖代々ここに住んで来たのだ。この土地を売るのは忍びない」とも語りました。だから「上に住まわせてくれ」と要求します。「自宅と金銭」を、別の地権者は「賃貸住宅を複数くれ」などと言います。「金銭だけでいい」という地権者も多数あります。

 

どのような形も、基本的にはできない相談ではありませんが、問題は「現金に換算したらいくらになるか」ということで、地権者は多ければ多いほど喜ばしいわけですが、デベロッパーとは利害が対立します。

 

地権者の数が少なければ、合意に達するまでは時間も短くて済みますが、数が多いと中々まとまりません。欲深い人もありますし、買い手の口車に乗せられないようにと身構えている人もいます。また、高齢者の中には説明が理解できず戸惑う人もあるからです。

 

ともあれ、時間がかかるにしても、やがて合意に達して、建物の一部(正確には敷地権付きの区分所有権)が地権者に配分されます。そうして、総戸数の10%なり20%なりの住戸が非分譲となります。モデルルームに行って価格表を手に取ると、何室かに「地権者住戸」と表記されています。あるマンションは上層階に固まっていたり、反対に下層階にまとまっていたりするのです。

 

上階に地権者住戸があるケースは、殆ど自己居住用です。下層階にコンパクト住戸が集中していて、そこが地権者住戸となっていれば「賃貸目的」と考えられます。

 

いずれにせよ、地主は強いもので、何度も話し合いを続けながらもデベロッパーは地権者パワーに押されて負けることが多いようです。デベロッパー側が強気になれば「それじゃあ俺は降りる」と言い出す始末で、何度も壁にぶち当たるのです。

「泣く子と地主(地頭)には勝てないよ」と嘆くデベロッパーのボヤキを筆者も聞いたことがあります。

 

こうして話がまとまって着工に漕ぎ着けるときには、大抵とんでもなく高い分譲価格になっていたりします。ここに大きな問題があるのです。

 

ただし、本稿のテーマはそこでなく、その戸数の多さです。100戸単位の数の多さに着目し、本稿を書き始めたのですが、「地権者が我が物顔でのさばっている」という話を聞いたからでもあります。

 

再開発マンションが合意に達するまでには、何度も壁にぶつかり、話が進んでは後退し、後退しては前進と、紆余曲折を繰り返したに違いありません。組合の構成員は、互いに近所の住人だったわけで、いわば村社会を作って来た人たちです。しかし、人間の欲望には限りがなく、権利調整は簡単ではありません。抜け駆けはできないし、そうかといってデベロッパーの提案に安易に同意もできない。そんな葛藤に思い悩む地権者が多いとも聞きます。

 

初めての一大事業を目の前にして、もともとあった地域コミュニティが最後は一段と強い絆で結ばれるようになるのです。その関係は完成したマンションに住んでからも続くのでしょう。それだけなら何も問題はないのですが、新住民との間で軋轢を生じさせることもあるというのです。

 

「このマンションは俺の売った土地の上にある」では済まず、依然として自分の土地があって、そこを建て替えたに過ぎないと勘違いしている地権者もあるのです。最上階に住んでいる地権者に、この種の錯覚を持った人が多いと、ベテランの用地取得専門のスタッフが語ってくれたこともあります。

 

同時に、「分譲マンションなのに、まるで店子扱いだ」と憤慨していたという一般購入者の話を聞かせてくれました。

 

よもや管理組合の運営に支障をきたすようなことはないと思いますが、地権者が多いと議案に徒党を組んで反対し、一般オーナーの反対票と合計したら過半数を簡単に超えてしまう、そんなこともあり得ない話ではないのです。

実際にあったという話ですが、大規模修繕工事を発注する先の業者が地権者の関係する工務店に発注され、地権者が甘い汁を吸ったというのです。

 

老婆心ならいいのですが、地権者に有利な(一般オーナーに不利な)約束事はないかを売主に確かめておく必要があるかもしれません。元の地主であろうとなかろうと、所有者は平等・公正に扱われるべきです。管理規約はどうなっているか、少なくともこれくらいの確認はしておく必要があるでしょう。

 

・・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。

 

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