第69回「修繕積立金は管理組合に置いて行くもの」

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過日、初めてマンションを購入するという人から尋ねられました。「修繕積立金は残っている分を退去時に返してもらえるのでしょうか?」と、また10年前に購入し、最近買い替えて転居した人から、「自分が住んでいる間に大がかりな改修工事をすることはなかったので、それまでに積み立てた修繕積立金が殆んど使われることはなかった。それが戻って来るわけではないので、損した気分だった」という声を聞きました。

 

これは筆者にとって「思いがけないお話」でした。今日は、修繕積立金について「基本のキ」お話ししようと思います。

 

●修繕積立金の徴収方法と相場

 

マンションの共用部分は、所有者が面積割合で費用を共同負担して改修することになっています。

しかも、その費用は必要のつど徴収するのではなく、あらかじめ決めた長期の計画に基づいて積み立てることになっています。

 

業界の通例では、入居時にある程度まとまった額を基金として徴収したうえに、毎月一定額を集める形になっています。

 

標準的な数字を紹介すると、毎月の積立金は専有面積1㎡あたり80100円、基金はその60100倍ほどです。 70㎡のマンションなら、毎月が56007000円ほど、基金(引き渡し時の一括徴収金)は36万円~70万円ほどとなります。

 

これは新築マンションの販売時点の設定です。中古マンションは異なります。

 

中古マンションの取引では、一括徴収金はありません。その代わり毎月の積立金は新築マンションより高いのが普通です。積立金は新築時点では安く設定されますが、数年ごとに値上げされるからです。

 

5年ごとに上がるのが普通で、20年目には当初の3倍くらいになってしまいます。つまり、20年後は㎡単価では250円から300円くらいになってしまうというわけです。

 

管理費は物価上昇がなければ上がらないので、当初の200/㎡から大きく変わりません。従って、20年くらい経過すると修繕積立金の方が管理費を上回ることも多いのです。

 

 

●積立金を段階的に上げる理由

 

修繕積立金を当初は安く設定し、段階的に上げて行くのは何故でしょう。理由は二つ考えられます。

 

その一つは、「最初から高く設定すると、毎月の負担が重荷に感じられ販売がしにくいから」です。積立金を低くし一時金を徴収するのは、一時金の方が購入時の気分が高揚したときなら徴収しやすいという売り手の思惑によります。

 

もう一つは、「新築して日が浅いうちは、多額の修繕費は必要がないから」というものです。

 

しかし、将来の多額の費用発生に備えて積み立てるという趣旨なら、新しいうちは不要という考え方には矛盾があるようにも感じます。結局、理由は前者の方だけになるのかもしれません。

 

「自分は住んでいないかもしれないのに、転居後に使う費用を払うのは抵抗がある」という買い手の心理をおもんぱかって段階性を考案したのかもしれません。

 

 

●積立金は管理組合に置いていくものである

 

大規模改修は12年~15年頃に実施されるのが一般的です。従って、12年以内に売却すると積立金が使われないうちに転居することになるのです。それは、何となくもったいないような気がするものです。

 

仮に10年で売却するとしたら、毎月6000円として120倍の72万円、これに入居時の一時金が60倍として36万円、合計で108万円が積み上がることとなります。10年間に小修繕がいくつか行われるとしても、築10年未満のマンションでは多額に費消することはないので、殆んど手つかずで残っているはずです。何となく損した気分になるという気持ちが分からないでもありません。

 

しかし、転居先が中古マンションであったとしましょう。その場合は、前の所有者が置いて行ってくれた積立金を引き継ぐようなものです。とすれば「おあいこ」ですね。その物件が多額に積み上がっていたら有り難いことです。

 

買い替え先が再び新築であれば、積立金は少ない代わりに基金を納めるのですから、結局、そこでも損だなと、そんなことを思う人もあるかもしれませんね。

 

しかし、工事を実施するときには自分が住んでいないとしても、転居先では住んでいるときに工事が行われる可能性があるのですから、他人のために積み立てているようなものだなどと考えるべきではありません。

 

まあ、因果応報と考えるほかないのかもしれませんねえ。

 

ただ、マンションの価値を維持するためには、改修工事を適切な時期に適切な方法と妥当な工事費で実施することが大事です。そして、そのための費用をできるだけ余裕をもって積み立てることは大事なことです。

 

●修繕積立金は高く積み上げる傾向にある

最近の新築物件の中に、毎月が200/㎡、一時金が120倍といった多額の設定となっている例を見ることが多くなりました。

 

理由と背景はともかくも、売主は販売に当たって、このような高めの計画書を管理会社に作らせる傾向が顕著です。

 

そうした方が長い目で見れば適時・適切な改修工事に踏み切りやすいのでしょう。

 

マンションの老朽化を遅くし、長く快適に住んで行くため、更には資産価値の維持に役立つ改修工事は欠かせません。マンションの建て替えは、基本的に不可能と思わなくてはなりませんから、建物の劣化を遅くする・止める・若返らせるという行為を所有者の合意の元に実現させなければならないのです。

 

しかし、何をやるのもお金がないと始まりません。所有者には、それぞれの事情がありますから、急に修繕費を出せと言われても困る人もいるのです。毎月の値上げすらも苦しいという人があります。積立金残高が潤沢であれば、適切な改修工事も可能でしょうが、財政基盤の脆弱なマンションでは、工事の発注もままならず、実施時期が遅れてしまいがちです。

 

長期の視点で財政基盤を堅固にしようという最近の業界の動きは歓迎すべきことと言えるのです。

 

●管理会社の言いなりにならなくていい

長期の修繕計画書は、周期的に工事の予定を組み、その支出予定額と費用積立て計画が一対になったものです。これを分譲時に管理会社が策定し、購入者に提示します。それに基づいて毎月の積立金を、また一時金は引き渡しのときに支払うことを買い手は約諾します。

 

ついでに付記すると、管理費(管理人の人件費や共用灯・エレベーターなどの電気代、清掃費などの日常経費)も納める必要がありますが、こちらは、「管理仕様書」に基づいています。管理業務は管理会社に全面委託するのが普通で、必要・不可欠な費用です。

 

管理会社の売り上げに相当する管理委託料という項目が管理費の中に有るのですが、これを高過ぎる(暴利)などと文句をつける所有者はいないはずですが、修繕費は別です。

 

管理は「お任せ」ですが、小修繕にしろ大規模修繕にしろ、改良・修繕工事を管理会社が勝手に業務として実施することはできないからです。

 

管理組合は、分譲時に提示された「長期修繕計画」を鵜呑みにしてOKサインを出すのでもありません。実は、長期修繕計画は3年~5年ごとに見直すのが慣例になっています。例えば、12年目に屋上防水や外壁塗装などの大規模修繕を予定していても実施しないこともありますし、費用の増減も見直しによって生まれます。

 

いずれにせよ、修繕計画はあくまで管理会社の提案です。管理会社の多くは自ら工事を請け負う体制を持っています。実際は下請けに丸投げするのですが、工事を受注したいという思惑もあるのです。

 

しかし、しなくてよい工事を発注しなくてもいいはずです。共同財産たる積立金は大事に使うべきです。ところが、所有者の側に工事費用が適正かどうか、それ以前にその工事が今ただちに必要なのか、1年遅らせても問題ないのではないかなどの判断ができる人がいない場合が多いのです。

 

大規模マンションなら、所有者の中には建築士も弁護士も、不動産会社の社員だった人など多種多様な人材がいるケースも多いと聞きますが、そうでないマンションが普通なのです。そのせいで、管理会社の提案(ある意味で営業)に乗ってしまい、大切な貯金を毀損してしまう例もあると聞きます。

 

大切な家の資産価値を維持するとともに、住む心地の良い家として(樹木などを)守り育てるためには支出を惜しみ過ぎても本末転倒になりかねません。適時適切な改修工事をできるだけ安く実施するには、どうすればいいのか。マンションを買ったら、そんな勉強もして行く必要があるのです。

 

 

・・・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございます

 

 

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