第196回 ゼネコンのビジネスモデル「土地探しで受注を図る」

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このブログは5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論を展開しております。

 

ゼネコンY社の営業担当役員は、「今回の案件はどこに持ち込むのかな」と問うと、部下は「はい、価格は高くなりそうですが、駅1分なのでM社かS社がよろしいかと」こう答えました。

「分かった。とりあえず打診に行って、感触が良かったら手を挙げようか?」役員はそう反応して先に進むことを内諾した。

 

役員は土地を購入する腹を固めた。これまでも、駅そばの土地を買って失敗したことがないからだ。とりあえず部下の報告を待った。

 

部下の報告はこうだった。

M社は高過ぎるから乗れないと言われたが、S社は乗り気だった。是非手に入れて欲しいということおでした。

 

役員は早速動いた。他の役員に根回しをし、財務担当役員には資金調達の依頼も行ったのである。部下は、地主との交渉に向かった。少しでも安くしておきたいからだ。

 

土地を買う。デベロッパーに転売する。工事を特命でもらう。これがゼネコンY社のビジネスモデルである

かつて、Y社は自ら土地を買って売主となり、利の薄いマンション工事を分譲利益でカバーする「造注」を繰り返したことがあったが、ゼネコンの企画するマンションは売れないことを思い知らされるという苦い経験を持っている。それ以来、餅は餅屋の格言に従い、自ら売主になることは避けている。

 

しかし、同じ土俵の上でライバル社と見積もり競争するだけでは利益は取りにくいので、「特命受注」になる策として、土地を一旦買ってデベロッパーに紹介するビジネスモデルに変更したのである。用地取得難に悩むデベロッパーは、どこも積極的に検討してくれた。

 

しかし、土地選びの目利きはデベロッパーの方が一枚も二枚も上である。中途半端な土地は土地代が安くないと乗って来ないとか、バス便の土地は広大なものでないと魅力あるマンションができないからダメと言われたりした。折角見つけた土地も、その情報は既にほかから来ているとあっさり断られてしまうこともあった。

こうした失敗を経験して行くうちに、デベロッパーの性格が分かり、規模の大小や地域の好みなどがあることも知った。究極はY社自身が地主になることだと気づいた。

 

さらに、ボリューム図面(どのくらいの規模のマンションができそうかを把握するための図)を作り、販売予想価格(計画価格)を試算したパッケージはプレゼンテーションには欠かせないことも学習した。

 

Y社には用地情報部がある。土地探しの専門部隊である。マンション業者にも不動産仲介業者にもない土地情報を先取りしなければならないからだ。そのための人員も多い。東京本社だけでも100人も擁しているのだ。

 

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デベロッパーは、地主に対して弱い立場にあります。適地がないからです。マンション用地として適当な土地は、一定の広さがあり、立地条件が良いことです。特に駅近は必須条件と言っても過言ではありません。だが、好条件の土地の売り物は少ないのです。仕方なく、駅から遠い土地、環境が優れない土地でも買って事業化するのです。それだけに、条件が良い土地は嫁一人に婿5人という状態となります。

 

最たるものは、駅前再開発案件です。地主は複数いて、いろいろな意見を持っています。これを一本化するには長い時間もかかるのですが、ネックは価格です。強気な地主は、「ここなら便利だから、買い手はいくらでもある。高く買ってくれる会社に売りたいね」などと強気です。

 

都心に近い、環境が良い、まとまった広さがある、郊外でも駅前の好立地などは競争率が高いので、どうしても高値になるが、それでもデベロッパーは地主にすり寄って行きます。デベロッパーは地主に弱いのです。

 

ゼネコンY社が土地を買うと聞き及んだ土地ブローカーは、デベロッパーよりY社に先ず足を運ぶと言います。結論が早いからです。

Y社は、積極的に土地を買いました。デベロッパーの立場と土地事情に鑑み、地主なってしまう道を選んだのです。

 

リスクもありますが、これが奏功して受注量もコンスタントに取れました。何年かして、Y社は見積もり競争に参加する数を減らし、特命受注の割合を増やすことに成功しました。

 

用地が買えないデベロッパーの中には、Y社が動く前に「最近買った土地はないか」と聞いて来る企業もあるのだそうです。

 

●奪い合いのマンション用地

マンションに向く土地が少ないため、用地争奪戦が続いています。このため、1年前に付近で取引された地価の2割高、3割高になったなどという例が増えています。

 

マンション用地は、ある程度まとまった大きさが必要であり、かつ交通便が良いことや環境が良いことなど、マンション建設にふさわしい条件を具備している必要があります。ところが、そのような土地はそうそう沢山あるわけではありません。

工場や倉庫、社宅、ガソリンスタンド、運動場などが企業のリストラの一環や移転、廃業といった事情で売り出されると、マンションメーカーはこぞって入札に参加します。そして、一番札を入れた企業に高値で売却されます。

 

マンション市況が良いときは、マンションメーカー各社は土地取得に積極的になります。高い札を入れてでも優良な土地は何とかして確保しようと前向きになります。その結果、新聞発表の地価上昇率3%などとは大きく隔たりのある高値取引が成立してしまうのです。

 

市況が悪化しているため、今後は少し様子が変わってくるかもしれません。しかし、業界が一斉に土地取得を手控える状況に転じる様子はまだ見られません。

一方、土地の需要はマンションデベロッパーだけではなく、例えば都心の商業地などはホテル用地と直接競合し、ホテル業者に競り負けることが多いと聞きます。

こうした動向を注視していると、当分の間、安価なマンション用地を取得できる状況にはならないと見るほかありません。

 

マンション用地の取得は難しい。デベロッパーの最大の苦悩はこの点にあります。

 

ひと頃、老舗の法人が所有してた社宅跡地などが大量放出され、マンションデベロッパーがより取り見取りに買えたことがありました。その結果マンション供給が急増したのですが、法人の土地放出は終わりました。もう良い土地は在庫がありません。土地は有限なので増える見通しも立ちません。

 

老朽化したビル、駐車場などが今後も売り出されることはあるにしても、爆発的に土地供給が増えることもありません。老朽化のスピードが速くなることはあり得ませんし、企業が大量に移転することで空きビル、空き店舗、空き工場が次々に売り出されることもないでしょう。

 

木造密集地の再開発によって、駅前の一角に突然大きな空き地が誕生することがあるにしても、都区内で年間10も20も出て来ることはないはずです。

 

マンション業者は土地が生命線です。事業存亡の機にあるのかもしれません。

 

●マンション建築費の高騰

工事はマンションメーカー(デベロッパー)から施工するゼネコンへ発注されますが、マンションメーカーには当然ながら予算があり、その範囲で受注してくれるゼネコンを探します。

 

普通は「指名入札」方式で、複数のゼネコンを指名して見積もりを依頼します。過去数年間の傾向は、予算内に納まるゼネコンがいなくて当たり前、予算を2割、3割上回る見積もりが普通。そのような状況にあります。

 

背景には、東日本大震災の復興需要によって専門職・建設労働者の人手不足が深刻な状態になったのがきっかけでした。建築費の45%は労務費と言われるので、その人手が足りない状況は、震災から8年を迎えようとしている今も解消されていません。

 

2013年秋に決まった東京オリンピックの関連工事も人手不足に拍車をかけました。その後に起きた熊本地震をはじめ、自然災害が次々各地を襲い、建設会社は繁忙を極めています。

 

マンションの建築コストは当然上がりました。人手不足は、建築資材が少し値下がりしたくらいでは焼け石に水でしかありません。

 

今後の見通しについても、建築費に関しては悲観的な見方が圧倒的です。五輪後の景況を心配する声もありますが、品川駅のリニア新幹線関連工事や山手線「高輪ゲートウエイ駅」の開設と関連工事、浜松町駅周辺再開発、東京駅北口・常盤橋再開発、虎ノ門~麻布台開発、「虎ノ門ヒルズ駅」の開設、首都高日本橋地下化工事など、都心の再開発が目白押しに予定されています。五輪後も訪日客の増加が見込まれるのでホテル建設需要も続くに違いありません。

 

これらを俯瞰して行くと、建築費の大幅な低下はないと見なければなりません。

 

●「土地を探せ」がゼネコンの合言葉だったときもあったが・・・

冒頭のY社に限らず、ゼネコンの多くは特命受注を狙って自ら土地を買ったり、土地情報を携えてマンション業者を訪問したりした経験を持っています。

 

しかし、それらはことごとく失敗して「餅は餅屋」であることを思い知ったのです。今でも、ときおりゼネコンが売主のマンションがありますが、それらは積極的なマンション分譲の参入を企図したものではないのです。

 

そんな中、Y社をはじめ少数のゼネコンは土地探しに長けているようです。マンション業者にとってはありがたい存在ということになりそうです。しかしながら、ゼネコンの土地探しは、Y社をはじめとする一部を除いて、マンションデベロッパーが土地ブローカーの情報を待つスタイルとは異なります。

 

建築の受注を狙う長期戦略なのです。昔からの得意技とでも言えばよいでしょうか?地主を口説いて数年先の仕事にするのです。地主も一人ではなく、数人、いえ数十人、ときには100人を超えます。

そうです。まとめて地上げすれば大きな仕事になるので、1ブロックをまとめようとします。しかし、人数が多いほど合意形成には時間がかかります。地主の事情は十人十色なので骨が折れます。

 

それでも、ゼネコン営業はそういうものと割り切っているらしく、足しげく通うのです。最終的には買収額が跳ね上がります。駅前再開発マンションが高い価格になってしまうのも合点がいきます。

 

土地情報というものは、公開されるものもたくさんありますが、マンション用地として優良な物件はほとんど水面下です。街歩きして空き地や空きビルを探すのは不動産業者なら誰にでもできます。その中の「売りたい、売ってもいい」という情報は町の不動産業者などが持っています。

 

学校や公益法人、自治体の土地は公開入札ですが、民間の土地は地主と仲介人の人間関係から特定の買主に密かにもたらされます。この仲介人こそがゼネコンです。

同じゼネコンでもY社とは異なる戦略で土地を探しています。

 

Y社は今日もマンションに向く土地はないかと足を棒にして歩き回っています。Y社が手に入れた土地情報または買った土地は蜜月関係にあるマンション業者にもたらされます。

 

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