第175回 近視眼が生む失敗の傾向と対策

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このブログは5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論を展開しております。

 

 

ご相談者からのメールを読んでいると、文章の行間から感じ取れることがいくつもありますが、そのひとつが、「売り手の販売戦略に乗せられてしまったなあ」というものです。今日は、売り手の策略に乗らない方法のお話です。

 

●モデルルームのまやかし

どのような商品でも、売り手は買い手の購買意欲を高めることに知恵を絞ります。商品のコンセプトやクォリティはもちろんのこと、パッケージのデザインを工夫する、広告の展開や展示方法を変える、価格を見直すといった様々な策が講じられています。

 

マンションでも同じですが、モデルルームを使った商品展示が最も象徴的です。車の販売では同じ車種でもデラックスタイプを展示しますが、それと同じで、たくさんある間取りタイプの中から、広くて見栄えのするタイプを選択し、かつ、リビングに続く個室の壁を外してより広いリビング空間を創り出していたりします。

 

映画のシーンに出て来そうな洒落た洗面化粧台、昔の風呂とは比べ物にならない広くて心地良さそうなバスルーム、最新設備が盛り込まれデザインも素敵なシステムキッチン、寝室のウォークインクローゼットなど、ここに書ききれないほど、魅力あふれるモデルルームを見せられて感動しない人は少ないことでしょう。

 

そこに家具・インテリアでの演出が加えられているので、見学者の住みたい、買いたいという欲望は絶頂に達します。強く刺激されるのです。購入することになるタイプがモデルルームとは全く異なるものであっても、モデルルームによって見学者は売り手のとりこにされてしまうというわけです。

 

自宅に置いてあるあの家具はどこへ置こうか、それとも新しい家具に買い替えた方がよいかなあなどと考え始めたら、もはや買った気分になっている証拠です。

 

このような商品展示方法は、業界では普通に古くから行われているもので、読者の多くもご存知のことと思います。

 

マンションという商品は不動産ですから、土地すなわち場所と一体のものです。場所の魅力をアピールしたい売り手の明らかな意思として、近年普及したのがシアタールームです。音声と映像によって街の魅力を解説します。

建設地の街を知らない人はもちろんのこと、比較的なじみのある見学者も、映像を使って解説されると、魅力を感じたり見直したりすることになります。

 

その説明には嘘飾はないかもしれません。しかし、街の全てを語っているわけでもないのです。営業担当者の説明も同じなのですが、利点・長所の類は針小棒大に説明します。しかし、都合の悪いことは黙っています。

 

●木を見て森を見ないための失敗例

このようにして、買い手は売り手の策略にまんまと嵌まり、買いたい気分が増幅されて行きます。中には、舞い上がってしまい、営業マンのペースに乗って購入申込書を提出してしまう人も少なくありません。

 

実は、そうなってしまっても結果オーライのことがあるのです。衝動的な買い物が全部失敗と決まったものでもないからです。

 

間取りも最新設備にも感動し、「予算的にも無理はない。自分たちはこのマンションを買うことができる」、そう思った瞬間から、見落としてはならない何かを探そうとする考えはどこかに置き忘れてしまったりします。住むための準備に心を奪われて他が見えなくなってしまうのです。

 

筆者にご相談メールを下さった人は救われるかもしれませんが、そうしなかった人たちの中には後悔している人もきっと大勢いるのだろうと思うのです。失敗事例を少し挙げてみましょう。

 

①金利が上がるから、消費税が上がるからと言われて慌てたため細かな部分に気付かず、完成内覧会のときになって、部屋の広さの3分の1を占める下がり天井の大きさにびっくり。こんなに天井が低いとは思わなかった。(モデルルームにないタイプを購入した人)

 

高速道路が近い場所だったので気にはなっていたが、バルコニーとは反対方向であったし、営業マンが高性能の防音サッシを使っているから大丈夫だと言うので契約してしまった。完成してから中に入ると、音がどこかへ反射してバルコニー面にも届くと知る

 

③周辺環境の素晴らしさ、マンション敷地内の公園・緑地、散策路などランドスケープの素晴らしさに感動し、価格の安さにも惹かれて購入したが、毎晩帰宅が遅い主人のタクシー代に悲鳴を上げる事態に(バス便マンションを購入した人)

 

④都心に近い割には広い間取りで、かつランニングコストも安いことに魅力を感じて契約したが、安い物件は安いだけの値打ちしかないと後悔した(工場跡地を開発したマンションを購入したが、学校が遠く、環境も良くないと知る

 

⑤決算直前だから200万円値引きするという誘導に乗ってしまい契約したが、その後500万円引きのモデルルーム販売の事例が何度も発生、地団太を踏む

 

⑥モデルルームのキッチンが憧れのアイランド型で、購入したのも同型。長年の夢がかなったと喜んだが、近所のコンビニの前で夜中に騒ぐ若者の声に悩まされることに。南向きにこだわって決めたが、隣の建物が接近しているせいで、玄関脇の北側の部屋が暗く、昼間でも電灯が必要なことに。こんはずではなかったと嘆く日々。

 

このような失敗例は、数限りなく存在します。熱くなったときは誰もが陥りやすいことでもあります。肝に銘じておきたいことは、「慎重に・冷静に」です。

 

●慎重な人でも陥る近視眼的な発想

物事の判断で大事なことは大所高所から俯瞰すること、木だけ見ないで森を見る目を持つことです。近くばかり見ないで遠くも見ることや、前からも後からも見るといった複眼思考なのだと思います。

 

そうは言っても、ついやってしまうのが人間の通弊です。特に、勉強している人ほど罠にはまるのかもしれません。

 

ある建築家の著書に、「〇〇の部分を△△の材料で造ったマンションは三流だ」や、「このような工法は一流マンションでは採らない」などと記載してあります。「三流マンションの根拠とする項目がずらりと並んでいるので、しっかり勉強した人は、モデルルーム見学に行き、パンフレットを見てチェックし、該当する箇所が1点でもあると、三流なのかと疑います。

 

ある人は、場所も良く、筆者の評価ではかなり高い得点がつく物件でしたが、本の主張そのままに三流と決めつけていました。

 

また、別の例ではキッチンのワークトップが人工ではなく天然の御影石でできていました。洗面所も同様で、大きな三面鏡や女性の化粧道具が種類ごとにきれいに納まる設計になっていました。また、掃除のしやすい継ぎ目のないタイプの洗面ボウルや、ガスコンロ前のホーローパネルも「さっと一拭き」と言われ、すっかり気に入りました。

 

寝室には、ウォークインクローゼットが付き、服装品がたくさん詰め込めるように感じました。

モデルルームでは、扉や引き出しを開けたり閉めたりしました。風呂の浴槽に体を沈めてみて広さを実感し、感激は絶頂に達しました。

 

こうした行動を繰り返すうちに、「ここの風呂は狭いな」とか「コンロの前壁はタイルか。掃除が大変だ」などと、細部に「ダメ出しする」クセができてしまいました。細部も大事ですが、優先するべき条件は他の所にあるはずです。それが満たされれば、後順位の条件は目をつぶることも必要なのですが、細かな条件ばかりに目を向け妥協しようとしないのです。

 

「木を見て森を見ない」でいると、遠回りになってしまいます。

 

●大事なのはそこじゃない

いくつもモデルルームを見て来た人は、「グレード感がもうひとつだった」とか「素敵な内装でした。設備もしっかり標準で付いていて・・・」などと語ります。筆者は、「見るのはそこじゃない」と思わず声をあげたくなります。

このブログでは過去何度も書いて来たことですが、マンション選びの順番は①街・・・②マンション全体・・・③住戸内となります。

 

その大事な「街」については、地元だから大丈夫という人と住んだことがないのでよく分からない人では見学(調査)の仕方が変わりますが、仮によく知っている人でも「他人目線ではどうなのか」を聞いてみることをお勧めします。これは、モデルルーム見学の後でも問題ありません。

 

②のマンション全体については、販売事務所(マンションギャラリー)に展示してある模型やパノラマの眺望写真や動画を見せてもらうだけでは足りません。エントランスの広さと天井高、仕上げ材、外観デザインの完成予想図に目を向けましょう。

また、外構がどうなっているのかもチェックすることが必要です。特に植栽がどの程度の面積にどんな樹木を並べるのかを見ることです。

といっても、中々想像がつかない、イメージが湧かないという人も多いことでしょう。

 

外観・玄関を含む共用部がどうなっているかは資産価値、リセールバリューを左右します。分からないで終わらせないことが大事です。必ず第三者の意見をお聞きになることをお勧めします。

 

③の住戸内については自然に目が行くのでここで述べることはありません。

 

見学の際は、「注意事項」や「診断リスト」などののメモを携帯することをお勧めします。以下のようなものをご自身で作成なさるといいでしょう。

 

<モデルルーム見学のチェックリスト>

①その街は、「住みたい街ランキング」で関東圏100位に入っていますか?

②その街の駅周辺は、昼間もにぎわっていますか?

③飲食店は十分に楽しめるだけの数がありますか?







⑩物件は駅から徒歩7分以内にありますか?

⑪前面道路の交通量はどうですか?(トラックの通行は多くないですか?)

⑫バス通りですか?

⑬歩道は並木道ですか?

⑭夜間、平日、週末と比べてみましたか?







⑳隣地の建物との間にゆとりはありますか?

㉑前面の建物が日照と眺望の障害になっていませんか?

㉒プライバシーの侵害はないですか?







㉚エントランスの壁面と道路境界までの距離はたっぷり取られていますか?

㉛規模・高さは周囲の既存ビル・マンションと比べて負けていないですか?

㉜エントランスホールの広さと天井高を確認して「立派な建物になる」と想像できますか?

㉝マンションの顔はイケメンですか?美人ですか?

㉞内廊下式マンション。廊下幅・広さは豪華なシティーホテル並みですか?






・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。

 

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